泉鏡花文学賞の受賞者と選考委員一覧、選考理由と受賞者の感想・内容概要も

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泉鏡花文学賞は金沢市が主催する文学賞で、泉鏡花生誕100年を記念して昭和48年(1973年)に制定されました。
全国規模の地方自治体主催の文学賞としては、初めての試みです。
知名度では芥川・直木賞に劣りますが、文学賞としての内容の高さはそれに勝ります。

【対象作品】
毎年8月1日を基準日とし、前1年間に刊行された文芸作品(小説、戯曲など、単行本に限る)で、泉鏡花の文学世界に通ずるロマンの薫り高い作品
【最新の選考委員】
下記に記載
【表彰】
正賞 「八稜鏡(はちりょうきょう)」
副賞 賞金100万円
※金沢市のHPより

選考方法は、まず地元金沢市の推薦委員会が、数編の候補作を決め選考委員会に推薦します。選考委員会は10月に東京で選考し、その推薦作を参考にしながら授賞作を決めます。
推薦作はあくまで推薦なので、推薦作以外から選考委員が独自に受賞作を決定することもあります。
例えば、第3回(昭和50年)森茉莉「甘い蜜の部屋」、第33回(平成17年)寮 美千子「楽園の鳥 カルカッタ幻想曲」等々がそうです。
対象は小説や戯曲などの単行本で「ロマンの薫り高い作品」となっていますが、第30回の野坂昭如のように作家個人の業績が対象になることもあります。
芥川賞・直木賞のように推薦作に受賞にふさわしいものが無かった場合、受賞作なしとするのではなく、選考委員が独自にその判断で受賞作を決めています。
選考委員が主体的に受賞作を決める姿勢は、選考委員自体が泉鏡花文学賞にふさわしいかいなかの評価とは別に、賞の価値を高めているといえるでしょう。


出典:北國新聞(第47回 令和元年の様子)

授賞式は11月に金沢で公開で行い、受賞者はその席でスピーチを行います。
授賞式および受賞者のスピーチを聞きたい場合は金沢市役所文化政策課(※)に申し込めば整理券をもらえます。
※電話:076-220-2442

東京の出版社主催の文学賞以外で、40年以上続いていることは誇るべきことですね。

2022年に第50回を迎えて、第1回からの審査員五木寛之の感想は↓↓

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【読売新聞】

泉鏡花以外の文学者名を冠した他の文学賞は次の記事を参照ください。

芥川・直木や大佛次郎など作家名を冠する文学賞一覧(泉鏡花以外)
芥川賞や直木賞はポピュラーですが、他にも作家名を冠した文学賞はたくさんあります。泉鏡花文学賞の受賞者・選定委員と比較すると面白いかもしれません。 全部挙げるとさすがに多すぎるので、 ・受賞対象が人では無く、既発表作品(公募の賞は除く)が対象...
  1. 正賞の八稜鏡とはどんなものか
  2. 表彰状のイメージ
  3. 泉鏡花文学賞の受賞者
  4. 泉鏡花文学賞の選考委員は
  5. 受賞作の概要・書影、選考委員の選考理由と受賞者の感想
      1. 北村薫 水 本の小説 新潮社 令和5年(2023)の第51回受賞者
      2. 朝比奈秋 あなたの燃える左手で 河出書房新社 令和5年(2023)の第51回受賞者
      3. 大濱普美子 陽だまりの果て 国書刊行会 令和4年(2022)の第50回受賞者
      4. 村田喜代子 姉の島 令和3年(2021)の第49回受賞者
        1. 村田喜代子の授賞式での発言
      5. 高樹のぶ子 小説伊勢物語 業平 令和2年(2020)の第48回受賞者
      6. 田中慎弥 ひよこ太陽 令和元年(2019)の第47回受賞者
      7. 山尾悠子 飛ぶ孔雀 平成30年(2018)の第46回受賞者
      8. 松浦 理英子 最愛の子ども 平成29年(2017)の第45回受賞者
      9. 長野まゆみ 冥途あり 平成27年(2015)の第43回受賞者
      10. 篠原勝之 骨風 平成27年(2015)の第43回受賞者
      11. 小池昌代 たまもの 平成26年(2014)の第42回受賞者
      12. 磯﨑憲一郎 往古来今 平成25年(2013)の第41回受賞者
      13. 角田 光代 かなたの子 平成24年(2012)の第40回受賞者
      14. 夢枕 獏 大江戸釣客伝(上・下) 平成23年(2011)第39回受賞作
      15. 瀬戸内 寂聴 風景 平成23年(2011)第39回受賞作
      16. 篠田 正浩 河原者ノススメ 死穢と修羅の記憶 平成22年(2010)年第38回受賞作
      17. 千早 茜 魚神  平成21年(2009)の第37回受賞作
      18. 横尾 忠則 ぶるうらんど  平成20年(2008)の第36回受賞作
      19. 南木 佳士 草すべり その他の短篇  平成20年(2008)の第36回受賞作
      20. 立松 和平 道元禅師  平成21年(2009)の第37回受賞作
      21. 嵐山 光三郎 悪党芭蕉  平成18年(2006)の第34回受賞作
      22. 寮 美千子 楽園の鳥 カルカッタ幻想曲  平成17年(2005)の第33回受賞作
      23. 小川  洋子 ブラフマンの埋葬  平成16年(2004)の第32回受賞作
      24. 丸谷才一 『輝く日の宮』 講談社 平成15年(2003)の第31回受賞作
      25. 桐野 夏生 グロテスク  平成15年(2003)の第31回受賞作
      26. 野坂 昭如 「文壇」およびそれに至る文業  平成14年(2002)の第30回受賞作
      27. 笙野 頼子 幽界森娘異聞  平成13年(2001)の第29回受賞作
      28. 久世 光彦 蕭蕭館日録  平成13年(2001)の第29回受賞作
      29. 多和田 葉子 ヒナギクのお茶の場合  平成12年(2000)の第28回受賞作
      30. 種村 季弘 種村季弘のネオ・ラビリントス 「幻想のエロス」ほか  平成11年(1999)の第27回受賞作
      31. 田辺 聖子 道頓堀の雨に別れて以来なり -
        川柳作家・岸本水府とその時代  平成10年(1998)の第26回受賞作
      32. 村松 友視 鎌倉のおばさん  平成9年(1997)の第25回受賞作
      33. 京極 夏彦 嗤う伊右衛門  平成9年(1997)の第25回受賞作
      34. 山田 詠美 アニマル・ロジック  平成8年(1996)の第24回受賞作
      35. 柳 美里 フルハウス  平成8年(1996)の第24回受賞作
      36. 山本 道子 喪服の子 平成5年(1993)の第21回受賞作
      37. 島田 雅彦 彼岸先生 平成4年(1992)の第20回受賞作
      38. 鷺沢 萌 駆ける少年 平成4年(1992)の第20回受賞作
      39. 有爲 エンジェル 踊ろう、マヤ  平成3年(1991)の第19回受賞作
      40. 日影 丈吉 泥汽車  平成2年(1990)の第18回受賞作
      41. 北原 亞以子 深川澪通り木戸番小屋  平成元年(1989)の第17回受賞作
      42. 吉本 ばなな ムーンライト・シャドウ(『キッチン』所収)  昭和63年(1988)の第16回受賞作
      43. 泡坂 妻夫 折鶴  昭和63年(1988)の第16回受賞作
      44. 倉橋 由美子 アマノン国往還記  昭和62年(1987)の第15回受賞作
      45. 朝稲 日出夫 シュージの放浪  昭和62年(1987)の第15回受賞作
      46. 増田 みず子 シングル・セル  昭和61年(1986)の第14回受賞作
      47. 宮脇 俊三 殺意の風景  昭和60年(1985)の第13回受賞作
      48. 赤江 瀑 八雲が殺した  昭和59年(1984)の第12回受賞作
      49. 三枝 和子 鬼どもの夜は深い  昭和58年(1983)の第11回受賞作
      50. 小檜山 博 光る女  昭和58年(1983)の第11回受賞作
      51. 日野 啓三 抱擁  昭和57年(1982)の第10回受賞作
      52. 筒井 康隆 虚人たち  昭和56年(1981)の第9回受賞作
      53. 澁澤 龍彦 唐草物語  昭和56年(1981)の第9回受賞作
      54. 森万紀子 雪女  昭和55年(1980)の第8回受賞作
      55. 清水 邦夫 我が魂は輝く水なり  昭和55年(1980)の第8回受賞作
      56. 金井 美恵子 プラトン的恋愛  昭和54年(1979)の第7回受賞作
      57. 眉村 卓 消滅の光輪  昭和54年(1979)の第7回受賞作
      58. 唐 十郎 海星・河童(ひとで・かっぱ)  昭和53年(1978)の第6回受賞作
      59. 津島 佑子 草の臥所  昭和52年(1977)の第5回受賞作
      60. 色川 武大 怪しい来客簿  昭和52年(1977)の第5回受賞作
      61. 高橋 たか子 誘惑者 講談社 昭和51年(1976)の第4回受賞作
      62. 森 茉莉 甘い蜜の部屋 昭和50年(1975)の第3回受賞作
      63. 中井 英夫 悪夢の骨牌 平凡社  昭和49年(1974)の第2回受賞作
      64. 森内 俊雄 翔ぶ影 角川書店 昭和48年(1973)の第1回受賞作
      65. 半村 良 産霊山秘録  昭和48年(1973)の第1回受賞作

正賞の八稜鏡とはどんなものか

八稜鏡とはどんなものでしょう。
精選版 日本国語大辞によると

「鏡縁が八弁菱花形をした銅鏡。中国唐代に盛行。この様式は朝鮮・日本にも伝来し、日本では奈良・平安時代の瑞花双鳥式がその一例。やかどのかがみ。」とのこと
泉鏡花文学賞では鏡花のうさぎ好きからうさぎを象っています。

(金沢文学館にて展示しているもの)
正賞が八稜鏡になった理由は、推測ですが鏡花の名前から鏡となり、伊勢神宮御神体の八咫鏡の文様が八稜鏡との説もあるのでそこから持ってきたのではないでしょうか。
下の画像は八咫鏡とはこのようなものではないかとの説がある、福岡県糸島市の平原遺跡出土の「大型内行花文鏡」です。

表彰状のイメージ


(平成3年の瀬戸内寂聴受賞時の場合)

泉鏡花文学賞の受賞者

各年度の受賞者は次のとおりです。

年度 作 品 名 作 者 名
51 令和5 水 本の小説 北村 薫
あなたの燃える左手で 朝比奈 秋
50 令和4 陽だまりの果てに 大濱 普美子
49 令和3 姉の島 村田 喜代子
48 令和2 小説伊勢物語 業平 高樹 のぶ子
47 令和元 ひよこ太陽 田中 慎弥
46 平成30 飛ぶ孔雀 山尾 悠子
45 平成29 最愛の子ども 松浦 理英子
44 平成28 大きな鳥にさらわれないよう 川上 弘美
43 平成27 冥途あり 長野 まゆみ
骨風 篠原 勝之
42 平成26 妻が椎茸だったころ 中島 京子
42 平成26 たまもの 小池 昌代
41 平成25 往古来今 磯﨑 憲一郎
40 平成24 かなたの子 角田 光代
39 平成23 大江戸釣客伝(上・下) 夢枕 獏
風景 瀬戸内 寂聴
38 平成22 河原者ノススメ 死穢と修羅の記憶 篠田 正浩
37 平成21 魚神 千早 茜
36 平成20 ぶるうらんど 横尾 忠則
草すべり その他の短篇 南木 佳士
35 平成19 道元禅師(上・下) 立松 和平
34 平成18 悪党芭蕉 嵐山 光三郎
33 平成17 楽園の鳥 カルカッタ幻想曲 寮 美千子
32 平成16 ブラフマンの埋葬 小川  洋子
31 平成15 輝く日の宮 丸谷 才一
グロテスク 桐野 夏生
30 平成14 「文壇」およびそれに至る文業 野坂 昭如
29 平成13 幽界森娘異聞 笙野 頼子
蕭々館日録 久世 光彦
28 平成12 ヒナギクのお茶の場合 多和田 葉子
27 平成11 箱の夫 吉田 知子
種村季弘のネオ・ラビリントス 「幻想のエロス」ほか 種村 季弘
26 平成10 道頓堀の雨に別れて以来なり -
川柳作家・岸本水府とその時代
田辺 聖子
25 平成9 鎌倉のおばさん 村松 友視
嗤う伊右衛門 京極 夏彦
24 平成8 アニマル・ロジック 山田 詠美
フルハウス 柳 美里
23 平成7 夢の方位 辻 章
22 平成6 該当作品なし
21 平成5 喪服の子 山本 道子
20 平成4 彼岸先生 島田 雅彦
駆ける少年 鷺沢 萠
19 平成3 踊ろう、マヤ 有爲 エンジェル
18 平成2 泥汽車 日影 丈吉
17 平成元 深川澪通り木戸番小屋 北原 亞以子
野分酒場 石和 鷹
16 昭和63 ムーンライト・シャドウ(『キッチン』所収) 吉本 ばなな
折鶴 泡坂 妻夫
15 昭和62 アマノン国往還記 倉橋 由美子
シュージの放浪 朝稲 日出夫
14 昭和61 シングル・セル 増田 みず子
13 昭和60 殺意の風景 宮脇 俊三
12 昭和59  「海峽」「八雲が殺した」 赤江 瀑
11 昭和58 鬼どもの夜は深い 三枝 和子
光る女 小檜山 博
10  昭和57 抱擁 日野 啓三
9 昭和56 虚人たち 筒井 康隆
唐草物語 澁澤 龍彦
8 昭和55 雪女 森 万紀子
わが魂は輝く水なり 清水 邦夫
7 昭和54 消滅の光輪 眉村 卓
プラトン的恋愛 金井 美恵子
6 昭和53 海星・河童(ひとで・かっぱ) 唐 十郎
5 昭和52 草の臥所 津島 佑子
怪しい来客簿 色川 武大
4 昭和51 誘惑者 高橋 たか子
3 昭和50 甘い蜜の部屋 森 茉莉
2 昭和49 悪夢の骨牌 中井 英夫
1 昭和48 翔ぶ影 森内 俊雄
産霊山秘録 半村 良

泉鏡花文学賞の選考委員は

泉鏡花文学賞、各年度の選考委員はつぎのとおりです。

第1回から現在まで選考委員を続けているただ一人の人は五木寛之氏で、
彼は直木賞受賞時に金沢在住だったことから、金沢との縁をもとに選考委員に選ばれた由です。

第20回から35回までの泉名月氏は泉鏡花の姪で鏡花亡き後、未亡人泉すずの養子になりました。

第46回から – 嵐山光三郎、五木寛之、金井美恵子、村松友視、山田詠美、綿矢りさ
第44回から45回 – 嵐山光三郎、五木寛之、金井美恵子、村松友視、山田詠美
第37回から43回 – 嵐山光三郎、五木、金井、村田、村松
第36回 – 五木、金井、村田、村松
第29回から35回 – 泉、五木、金井、村田、村松
第28回 – 泉、五木、金井美恵子 半村、村田、村松友視
第27回 – 泉、五木、半村、村田
第26回 – 泉、五木、尾崎、半村、村田喜代子
第25回 – 泉、五木、奥野、尾崎、半村
第22回から24回 – 泉、五木、奥野、尾崎、半村、三浦
第20回から21回 – 泉名月、五木、奥野、尾崎、半村良、三浦、吉行
第19回 – 五木、奥野、尾崎、三浦、吉行
第16回から18回 – 五木、井上、奥野、尾崎、三浦、森山、吉行
第1回から15回 – 五木寛之、井上靖、奥野健男、尾崎秀樹、瀬戸内晴美、三浦哲郎、森山啓、吉行淳之介

受賞作の概要・書影、選考委員の選考理由と受賞者の感想

北村薫 水 本の小説 新潮社 令和5年(2023)の第51回受賞者


山田詠美の選考理由
「熟練したベテランときらりと光る若手。対照的な作家を同時に選ぶことができた」
村松友視の選考理由
「どちらも落とせない力がある作品だった。意義深い同時受賞となった」

朝比奈秋 あなたの燃える左手で 河出書房新社 令和5年(2023)の第51回受賞者


山田詠美の選考理由
「熟練したベテランときらりと光る若手。対照的な作家を同時に選ぶことができた」
村松友視の選考理由
「どちらも落とせない力がある作品だった。意義深い同時受賞となった」

大濱普美子 陽だまりの果て 国書刊行会 令和4年(2022)の第50回受賞者


村田喜代子 姉の島 令和3年(2021)の第49回受賞者


作品
離島に暮らす老海女らが主人公の海と海女をテーマに描いた冒険小説。終戦直後に米国に処分され、海に眠ったままの旧日本海軍の潜水艦の存在を知り、物語が進む。
海は、そこに海水がなければ、地上と同じ広い平原や谷、山があるだけだ。なのに海水があることで「そこは真っ暗でおそろしい場所になる」と村田さん。そんな神秘的な魅力を放つ海を、海女と「せめぎ合わせて書きたい」と思ったという。

綿矢りさの選考理由
「死と隣り合わせの状況で長い時間をかけ見つけていった死生観が、全編を通して語られていて感銘を受けた。幽玄さが心に残った」

村松友視の選考理由
「村田さんの作品の中でも特別な作品。心の宇宙に連れて行ってくれるすごい作品だ」

嵐山光三郎の選考理由
「これほど面白い小説はない。ここ10年間でナンバーワン。ギリシア神話の悲劇、千夜一夜物語の活劇、万葉集の叙情の三つが一体となった作品」

村田喜代子の受賞時の感想
「(受賞は)思ってもみなかったのでびっくりしました。この世の業から逃れられるのが水の中かなとふと思ったりして海女っていうのを一度書いてみたいと思っておりました。(作品を書いて)すごく満足しておりましたのでこんな賞を頂けたことはとても嬉しいです」

村田喜代子の授賞式での発言

「海の中に素晴らしいロマンの世界があることを知ってほしい。年を取っても、創造力はたくさん湧く。書きたくてたまらない作品が2本あり、体を大事にして書き続けたい。」また、「海は怖い。そんな海を仕事場にしている海女に興味を持った。能登の海では90歳近い方が現役と知り、ますます感動して題材に選んだ。執筆中に海底に日本海軍の潜水艦が沈んでいることが分かり、このことから物語を大きく転換させた。」「もう少し若かったら連載を同時に3本書いていたと思う。寝かせている2作品を仕上げたい。海は怖いが、人間は怖いものに近づきたくもなるものだ。」

「泉鏡花も怖いけれども、とても引かれる。その鏡花を生んだ金沢も同じ。そんな土地は他にない。鏡花の好きな作品は”外科室”。女性の心理に入り込んだ小説で幻想だけでない鏡花の深さを感じる」。

高樹のぶ子 小説伊勢物語 業平 令和2年(2020)の第48回受賞者


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作品
平安時代の歌物語「伊勢物語」の主人公とされる在原業平(ありわらのなりひら)の生涯を、和歌を織り込みながら独特の文体で、初めて小説化した意欲作。

綿矢りさの選考理由
「美しく、語るような文体で、和歌を生かした形で小説を書かれていた。相当の実力がないと書けない作品だと、評価が高かった」。

村松友視の選考理由
「歌、伊勢物語という既存の物語、作者が作るフィクションの三つを溶け合わせている文体を、ものすごい力を込めて作り出した。作家として円熟したこの時期でこそ書ける力作だ」。

高樹のぶ子の受賞時の感想
「『新しい自分の冒険』をした作品に評価をもらった。日本の美をきちんと書いている鏡花の名の賞を頂き、大変うれしい」、朗報をすぐに「1100年前の業平」へ報告しました。
独特の文体は、口承文学であった日本文学の音律、リズムを大切にしたため。「歌の音律を壊さずに、歌の中身を地の文に溶け込ませるように小説的に書くことが一番難しかった。読んで音楽を感じてもらいたい」。
業平をテーマに選んだ理由について「日本の美意識は、権力者でなく、傍流の文学によって受け継がれてきた。その源流は業平にあると思う。日本の美意識のルーツを取り上げたかった」。
金沢との縁は深く「非常に文学的土壌がある土地。島清(しませ)恋愛文学賞でのご縁もあり、また金沢の鏡花賞を頂けて大変うれしい」と喜び、受賞作が「古典との懸け橋になればいい」と。

田中慎弥 ひよこ太陽 令和元年(2019)の第47回受賞者


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作品
今日も死ななかった。あの帽子を見たために、今日も死なずにすんだ――。一緒に住んでいた女に出ていかれ、切り詰めた生活でひたすら小説を書く40代の男。書けない日々が続き、いつしか死への誘惑に取り憑かれた男に、ある日人探しの依頼が届くが……。

綿矢りさの選考理由は「私小説か妄想なのか、現実とフィクションのはざまで揺れ動く作家の気持ちが切実に書かれている。そのディテール(細部)が審査員の心をつかんだ」と評価し、「題名も弱そう。飾り気のなさ、丸腰な感じが斬新だと感じた人も多かったのではないか」と語った。

田中慎弥の受賞時の感想
「文学賞は久々なので非常にうれしい」と、受賞作については「いかにも私小説という看板をしたあくまでもフィクション。特に意識したわけでないが、単に日常を描く上で変化を付ける意味で、幻想的な要素も入ってきたと思う」と述べた。鏡花作品はあまり読んでおらず、遠い存在としながら「名前が付いた賞をいただき、今後、意識して活動していかないといけない」と抱負を語った。

山尾悠子 飛ぶ孔雀 平成30年(2018)の第46回受賞者


飛ぶ孔雀

作品
火が燃えにくくなった世界を舞台に、前半部「飛ぶ孔雀」と、後半部「不燃性について」からなる連作長編。

金井美恵子の選考理由は「水や死、登場人物のせりふや建物などの描写一つ一つが、鏡花の小説を血肉化、骨肉化して自分のものとした上で書かれている。泉鏡花の文学に近い資質を持った小説だと意見が一致した」「読みやすいタイプの小説ではないが、硬質な文章が心地よく、イメージに引き込まれるように読める。長いブランクを経て、小説のジャンルの限定を超えて書かれた、見事な作品だった。」で、選考委員6人の満場一致で決定の由。

山尾悠子の受賞時の感想
「名前を挙げるだけでクラクラするような作家ばかりが受賞される賞。いつかは私もここに名を連ねる作家になれたらと、本当に憧れていた。」

松浦 理英子 最愛の子ども 平成29年(2017)の第45回受賞者

日夏(ひなつ)と真汐(ましお)と空穂(うつほ)。
夫婦同然の仲のふたりに、こどものような空穂が加わった。
私立玉藻(たまも)学園高等部2年4組の中で、
仲睦まじい3人は〈わたしたちのファミリー〉だ。

甘い雰囲気で人を受け入れる日夏。
意固地でプライドの高い真汐。
内気で人見知りな空穂。

3人の輪の中で繰り広げられるドラマを、
同級生たちがそっと見守る。
ロマンスと、その均衡が崩れるとき。
巧みな語りで女子高生3人の姿を描き出した傑作長編。

長野まゆみ 冥途あり 平成27年(2015)の第43回受賞者

川の流れる東京の下町で生まれ、実直な文字職人として生きてきた父。しかし亡くなったあと、いままで信じてきた父の人生に知られざる横顔が覗き始めた!遠ざかる昭和の原風景のなかに浮かび上がる人の生き様。著者の実体験を元にした、自らと一族の来し方を見つめる旅の物語。

篠原勝之 骨風 平成27年(2015)の第43回受賞者

小池昌代 たまもの 平成26年(2014)の第42回受賞者

磯﨑憲一郎 往古来今 平成25年(2013)の第41回受賞者


往古来今

作品
綿々と続く時間の流れのなかで人は何を感じ、受け入れ、進むべき道を選ぶのか――「過去」と「いま」が交錯する比類なき五つの物語

金井美恵子の選考理由は、「時間と空間を自由に超えてしまうような小説の展開で、穏やかで緊張感のあるやさしい言葉で小説が語られながら、全く別の世界を広げてしまう。鏡花と共通する小説の強い力を感じた」
村松友視は「音楽的なリズムが導入されており、小説プラスアートのような不思議な感触を受けた」

磯﨑憲一郎の受賞時の感想
「まだまだ新人。もらっていい賞なのか分かりませんが、励みになりました」

角田 光代 かなたの子 平成24年(2012)の第40回受賞者

夢枕 獏 大江戸釣客伝(上・下) 平成23年(2011)第39回受賞作

瀬戸内 寂聴 風景 平成23年(2011)第39回受賞作

瀬戸内寂聴の受賞時の感想
「こうなったら100歳まで生きて芥川賞をもらう」

篠田 正浩 河原者ノススメ 死穢と修羅の記憶 平成22年(2010)年第38回受賞作

千早 茜 魚神  平成21年(2009)の第37回受賞作

横尾 忠則 ぶるうらんど  平成20年(2008)の第36回受賞作

南木 佳士 草すべり その他の短篇  平成20年(2008)の第36回受賞作

立松 和平 道元禅師  平成21年(2009)の第37回受賞作

嵐山 光三郎 悪党芭蕉  平成18年(2006)の第34回受賞作

寮 美千子 楽園の鳥 カルカッタ幻想曲  平成17年(2005)の第33回受賞作

小川  洋子 ブラフマンの埋葬  平成16年(2004)の第32回受賞作

丸谷才一 『輝く日の宮』 講談社 平成15年(2003)の第31回受賞作

桐野 夏生 グロテスク  平成15年(2003)の第31回受賞作

野坂 昭如 「文壇」およびそれに至る文業  平成14年(2002)の第30回受賞作

笙野 頼子 幽界森娘異聞  平成13年(2001)の第29回受賞作

久世 光彦 蕭蕭館日録  平成13年(2001)の第29回受賞作

 

多和田 葉子 ヒナギクのお茶の場合  平成12年(2000)の第28回受賞作

種村 季弘 種村季弘のネオ・ラビリントス 「幻想のエロス」ほか  平成11年(1999)の第27回受賞作

田辺 聖子 道頓堀の雨に別れて以来なり -
川柳作家・岸本水府とその時代  平成10年(1998)の第26回受賞作

村松 友視 鎌倉のおばさん  平成9年(1997)の第25回受賞作

京極 夏彦 嗤う伊右衛門  平成9年(1997)の第25回受賞作

山田 詠美 アニマル・ロジック  平成8年(1996)の第24回受賞作

柳 美里 フルハウス  平成8年(1996)の第24回受賞作

山本 道子 喪服の子 平成5年(1993)の第21回受賞作

島田 雅彦 彼岸先生 平成4年(1992)の第20回受賞作

鷺沢 萌 駆ける少年 平成4年(1992)の第20回受賞作

有爲 エンジェル 踊ろう、マヤ  平成3年(1991)の第19回受賞作

日影 丈吉 泥汽車  平成2年(1990)の第18回受賞作

北原 亞以子 深川澪通り木戸番小屋  平成元年(1989)の第17回受賞作

 

吉本 ばなな ムーンライト・シャドウ(『キッチン』所収)  昭和63年(1988)の第16回受賞作

泡坂 妻夫 折鶴  昭和63年(1988)の第16回受賞作

倉橋 由美子 アマノン国往還記  昭和62年(1987)の第15回受賞作

朝稲 日出夫 シュージの放浪  昭和62年(1987)の第15回受賞作

増田 みず子 シングル・セル  昭和61年(1986)の第14回受賞作

宮脇 俊三 殺意の風景  昭和60年(1985)の第13回受賞作

赤江 瀑 八雲が殺した  昭和59年(1984)の第12回受賞作

三枝 和子 鬼どもの夜は深い  昭和58年(1983)の第11回受賞作

小檜山 博 光る女  昭和58年(1983)の第11回受賞作

日野 啓三 抱擁  昭和57年(1982)の第10回受賞作

筒井 康隆 虚人たち  昭和56年(1981)の第9回受賞作

澁澤 龍彦 唐草物語  昭和56年(1981)の第9回受賞作

森万紀子 雪女  昭和55年(1980)の第8回受賞作

清水 邦夫 我が魂は輝く水なり  昭和55年(1980)の第8回受賞作

金井 美恵子 プラトン的恋愛  昭和54年(1979)の第7回受賞作

眉村 卓 消滅の光輪  昭和54年(1979)の第7回受賞作

唐 十郎 海星・河童(ひとで・かっぱ)  昭和53年(1978)の第6回受賞作

津島 佑子 草の臥所  昭和52年(1977)の第5回受賞作

色川 武大 怪しい来客簿  昭和52年(1977)の第5回受賞作

高橋 たか子 誘惑者 講談社 昭和51年(1976)の第4回受賞作

森 茉莉 甘い蜜の部屋 昭和50年(1975)の第3回受賞作

 

中井 英夫 悪夢の骨牌 平凡社  昭和49年(1974)の第2回受賞作

森内 俊雄 翔ぶ影 角川書店 昭和48年(1973)の第1回受賞作

半村 良 産霊山秘録  昭和48年(1973)の第1回受賞作

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